九兵衛の神速の剣についてくるものなど四天王以外ではほとんど皆無に等しい
だから九兵衛が組むのは決まってサボってばかりの南戸以外の三人だった
他の二人には互角以上に渡り合えたが東条だけは互角以上に渡り合っても
勝った気がしない。
東条は自分の死角である左からの抜刀術を一切使ってこないのだ
当初は全く分からなかったが、剣術の腕が上がるにつれ
その微妙な気遣いのある太刀筋に気づきイライラした
今日も合同練習の後に東条と試合をすると
やはり左からの本気の打ち込みは一切なかった
三分後九兵衛の右からの抜刀で東条の木刀は空を舞った
「いやぁ、若はとてもお強い。。とても敵いません」
そういっていつものように東条は苦笑いのような笑みを浮かべて下がろうとしていた
「待て、東条」
「どうしました若?」
「なぜお前は私の死角を避けるように攻撃する?
お前が敵なら間違えなく左からの抜刀術を使うはずだ」
「私は若の味方です」
当たり前といった感じで返答する
「それでは私がお前クラスの剣客とあったとき死ぬかもしれないだろう
それでもいいのか?」
「それは困りますね。ではやりますか」
そういって東条が木刀をもった
一分ともたず、わき腹に木刀を二度寸止めされた
正直ショックだった
互角とまでもいかないまでも三分は持つと思っていた
「やはり強いな、東条は」
「いや、若こそその年齢でたいしたものです」
そういって東条が笑った
まるで赤子をあやす親のような笑顔だった
「お前が味方でよかったよ」
「そうですね」
いえいえ。と謙遜せずに素直に認めるのはおそらく僕のプライドを傷つけぬためだろう
この男はすごい
僕のことなど何でもおみとおしだ
「やはり、左目が使えないのは不利だな」
そういってため息をつくと東条がまじめな顔で言う
「私は若がうらやましいですよ」
「なぜだ?戦闘の不利に」
そこまで言うと東条に
「大切な人を護るためについた証」
と無理やり言葉をさえぎられた
そして優しく
「私は戦闘の不利になることになってもあなたを守るための傷なら惜しくないですよ」
そういって抱きしめられた。
おそらく東条が僕に抱いてるのは恋心ではなく、愛おしさ
それが一生変わることはないと分かっていてもこの瞬間だけは恋心であって欲しいと
九兵衛は願った