「若、これどーぞ」そういって男が差し出したのは、薄桃色の着物。

私が不服な顔をしていると男が念を押すように言う
「あげると言っているんです」

「これを僕にどうしろと?」
そう怒ったように言うと男はおかしそうに笑う
あぁ、イライラする。この男は全て分かっていてやっているのだ

「僕にコレを着ろと?僕は、柳生九兵衛は・・・男だ」

「へぇ〜そうですか。いやぁ、若が男だなんて初めて聞きましたよ。」

「くっ・・・」
なんというやつだ部下の癖に私が男であることを邪魔する

「あーあ、若に着て欲しかったんですけどねぇ。無駄になってしまいましたね
もったいないから、近所の町娘に来てもらいますかねぇ」
そういってニタニタと笑っている

町娘がこの男に着物をもらって喜ぶ姿が簡単に目に浮かんだ
そしてそれを想像した自分の心が酷く痛んだ

「や、めろ・・・一度人に渡そうとしたものを渡すなどその娘に、失礼だろう・・・!」
「でも着ないでしまっておくなら誰かにあげたほうがいいでしょう?」
そういって男はいやらしく笑った

「う・・・っ、」
「・・でも若の着物姿はみたかったかな、なんて」

「・・・っ、わかった・・・一回だけ、だからな!」
「やったぁ」
男は計算どうりといった感じで手をたたいて喜んだ

着替えて出て行くと男は
しばらく止っていたがすぐに近づいてきて

「若は男にしておくにはもったえないくらい綺麗ですよ」
と耳元でささやいた

胸が高なる。こんな言葉聴きたくなかった。
決して認めてはならない。

なぜなら、柳生九兵衛は「男」、だから。

あぁ、辛い辛い辛い
そう思っているとひとりでに目から雫が落ちた。


するとさっきまで笑っていた南が急にまじめな顔で私を抱きしめてくれた
「男同士で抱き合う奴があるか。」
そういうと彼は
「男同士で抱き合うこともたまにはあるんですよ。若」
といっていっそう強く抱きしめてくれた

あぁ、願わくばこの瞬間がいつまでもと思いながら
九兵衛は涙でぼやけた天井を仰いだ