最後の挨拶
今日は久しぶりに松本がいない隊主室ほのぼのとしたいい雰囲気だった
「今日は久しぶりにゆっくりできるな」
たまの平穏を楽しむようにのんきに茶をすすっていた
「失礼する」
百哉が隊長室に突然入ってきた
「なっ、なんだ!?」
この前氷輪丸の件で殺されかけて以来の対面だ。オレは明らかに怯えていた
「・・・・」
俺の前まで来ると百哉は歩を止めおもむろに刀を俺の前に置いた
「これは・・・氷輪丸!?どうして」
ルキアが失踪して二ヶ月経っていた、俺は彼女になにかあったのかと思った
「まさか死・・・」
百哉は俺が言いたいことが分かったらしい
「ルキアがお前に返したいと言っていたのでな」
その言葉に俺はホッとした
そして自分の愛刀が手元に戻ってきた喜びに浸ろうとして、ふと疑問に思った
なんでルキアが自分の体をとして手に入れた氷輪丸を返すんだ?
俺は百哉を見た
おもむろに百哉が口を開く
「二ヵ月後にルキアは処刑される」
「なっ・・」俺は言葉を失った
愛はないとはいえ幾度となく交わった女だ。関心がないと言ったら嘘になる
「お前の妹だろ?どうにかならないのか」
「私は掟に逆らわぬ」
冷たい声で百哉が言い放ち俺の前から消えた
俺はしばらくボ〜〜っとした後、一応お礼を言うためにルキアに会いに行くことにした
心の中にルキアが死ぬことで自分の愛刀が戻ってくる喜びを抱えながら
門番のいかにも駄目そうな男に門を開けさせると
牢越しにルキアが見えた
「ルキア・・・」
誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟いた
「レンジまたお前か・・・いいのかこんなところで油売っていて」
振り向く必要がないぐらい毎日来てるらしくレンジと間違えているらしい
「さっき兄様に頼んで日番谷隊長に氷輪丸を返してきてもらったよ」
どうやらレンジと間違ったまま会話は進行していくようだ
傍からみると滑稽だろうが二人きりなので驚くだろうと思い黙っていた
「日番谷隊長が・・・結婚してくれって言ったとき正直嬉しかった」
「・・・」
自分の刀惜しさに言った言葉だ。本当にルキアが好きだからじゃない
そう考えると罪悪感で胸が痛んだ
「だがそのとき私は日番谷隊長に酷いことを言ってしまった」
思わず「ほんとだよ!」と切り返しそうなって口を押さえた
「のう・・・レンジ私は酷い女か?」
「・・私は愛しい人を自らの手で殺した・・・」
「そのとき以来、人を愛したいと思わなかった。いや愛したいと思っても必死で避けてきた」
「失うのが怖かった」
「だから嘘をついた。本当・・だった・・・」
本当に小さな掠れた声が聞こえた。俺にはその小さな一言が聞こえた
「レンジ・・・悪いが日番谷隊長を呼んでくれ」
「自分の愛したものの幸せを奪いたくないからな・・・愛するものに嫌われるのは辛いが、残していくものに辛い思いだけはしたくない」
「レンジ・・・レンジ?」
振り返ったルキアの前には誰もいなかった
そして俺はなにくわぬ顔で恋次に呼ばれてきたふりをした
俺はルキアのセリフを耳で受け流しながら自分の好きな人に嫌われるために言葉を重ねる辛さを考えた
自分の体に傷がつくよりよっぽど辛いだろうそう思いながら俺はルキアの顔を見つめていた
俺は牢を出て歩き出した
「くそ、礼なんか言いにいくんじゃなかった。そうすればあいつを好きになることなんてなかったのに」