麻薬のように


私は10番隊に清音と仙太郎を呼びに行くために急いでいた
「失礼します」
そういって私が入っていくと部屋中に酒の匂いが充満していた
ルキアは鼻をつまみながら二人に浮竹が呼んでいたことを告げると、二人は這うように駆けていった

二人残された私と松本殿に微妙な空気が流れた、お互いにタイプが違うせいかなんとなくお互いを避けてしまう

その微妙な沈黙に耐え切れなくなった乱菊がきりだした
「朽木飲みましょう」
「えっ!?」
「私の酒がのめないっていうの?」
「そういうわけでは」





一時間後には、すっかり二人とも出来上がっていた
酒は全ての人間関係を穏便にしてしまう魔法の薬だ。そんなことを思いながらいい気分になっていると
松本が市丸の愚痴を言い出した。
自分でも不思議なくらい便乗していた。何分私が愚痴っていたのかは分からない
それを黙って聞いていた松本がゆっくりと、でも重い言葉で切り出した
「あんた、市丸のこと好きでしょ」
と驚くべきことを口走った

ルキアはあっけにとられていたがすぐに否定した、松本は悲しそうに笑って話を続けた
「そうね、でもそんだけ愚痴ってる時点で市丸はあんたにとって特別なのよ」

私がいきなりのことに返答できずにいるとどう答えればいいのか思案していると彼女は続けた。
「あたしも最初は信じられなかったけど、市丸があんたに興味持つようになってはじめてきづいたの
あぁ、私はこの人がこんなにも好きなんだって」

面白いからからかってるだけです。と半ば拗ねた感じでいうと彼女は
「あら、そんな人間の為にあの酔狂な男がわざわざ、虚討伐についていったり、あんたがつらい日に現れたり、
あんたへの苛めを止めると思う?」

その言葉にはっとした
そういえば、

虚討伐の時に私が傷ついたことがあっただろうか、

海燕殿の命日に市丸隊長が現れなかった日はあっただろうか、

私に対する嫌がらせがなくなったのはいつからだろうか、

そんなことを考えていると
「あいつはあんたが好きなのよ」
と言った。

驚いて何もいえなくなった私に彼女が言う
「でも、あんたがあいつを好きになっても、あんたから好きって言っちゃ駄目」

「あいつは好きって言われたらもう興味がなくなってしまうみたいだから。。」

なんで私にそんなこと教えてくれるのかと思った
普通恋敵にこんなこと教えてくれる人はいない

私が言いたかったことが分かったのか彼女は、今まで私に見せたことのない悲しそうな顔で
「あいつがこれ以上私から離れていかないようによ」
そういって笑ってそのまま休憩所に入っていった


私は酔いも一気にさめ外に出た
目の前の池には月が綺麗に写っていた

歩きながら悲しそうに笑う松本副隊長を思い出した
多分この世界を探してもここまでいい女にはそうそう出会わないだろう
そんな女にここまで言わせる男

人の心の奥に根を張るような蛇の牙に私はもうかかってしまったのだろうか
そう思いながら目を閉じた。
その瞬間胸が熱くなるのを感じた気がした